日本画ZERO展について

雑感。まとまらず。

1.日本画の問題

日本画についておさらい。
日本画という区分は「学問的妥当性」、「国策的意義」、「市場的価値」それぞれで判断されるべきであろうが、それぞれ意味を失ってきているのだろう。「日本画」というのは、「日本で描かれている絵画」の意味ではない。明治期のお雇い外国人であるフェノロサが、官僚に向けた講演の際に発した「Japanese picture」ないし「Japanese painting」という言葉の訳であり、その後内国絵画共進会によって推奨されていく絵画形式を指している。

フェノロサの講演をうけ、内国絵画共進会や東京美術学校では、日本の伝統的な、掛け軸、巻物などの形態を排し、模写を禁止し、正統的な「絵画」を墨、膠系に限定し、それ以外の焼絵、染絵、織絵、縫絵、蒔絵を「工芸」として、正統絵画の位置づけから排除した。フェノロサに講演を依頼した竜池会は官僚と画商からなる団体であり、ジャポネズリーにわく西洋へ、いかに外貨獲得のための美術品を輸出するのか。国会開設対策としての国民教化(=国民国家化)をいかに行うか、という国家戦略のうえでの美術の制度化であった。
オリジナリティーの重視は従来の「本歌取り」のような伝統的なスタイルを否定しており、「日本的」という意匠をまといつつも西洋の価値基準へと合わせたものであることが分かる。北澤憲昭はこれをマイルドな、あるいは隠蔽された西洋化と述べる。日本画は、西洋列強という他者との出会いによって、「日本の絵画」を作り上げようとして生まれた形式だ。

国家戦略的意識から形成された日本画は、日本のナショナルペインティングとして存続するためには、時代や社会状況に合わせたアップデートが必要であるが、大学という研究機関においては、それが行われてはいない。*1つまり、学問的、国策的な意義は失われている。

市場的な動向については明るくないが、はじめに対外輸出品として成立したにもかかわらず、いつのまにか家元制度的な「日本画道」化した日本画は、世界的な市場価値を持たないのだろう。現在のアートマーケットはグローバルであり、そこでの市場価値を持てなければ、日本のローカルなマーケットが縮小していく以上市場価値は保持できない(これは工芸分野でも同様だろう。)。

日本画はすでに死んでいる。
、、、と、戦後「日本画滅亡論」の時に言われてから日本画は戦後の復興と相まって90年代初頭までマーケットを基盤に延命しました。、、、というか、大ブームの絵画ジャンルとなりもしました。しかし、バブル経済崩壊後、日本画は日本社会そのものからはじかれてしまい、今、寄る辺を失っています。

彼らは日本画科に入学した事を根拠に、日本画の存在意義の自明性を疑っていませんが、卒業後、その同数の数百人の日本画科卒業生が実態に立ちすくむのです。 つまり、社会にはじかれてしまった事実に気がつく。それでも日本画の根拠を信じ、活動し続けはするものの、ここ20年は生きているのか、死んでいるのかさえわからない、日本画の根拠はゴースト化してしまいました。*2

で、ここ。長いけど引用。

ココで少し昭和日本画の歴史をおさらい。
東京芸術大学日本画科学閥を基準とした価格設定。
教授だから幾ら。助教授、講師、助手。
在学時に博士課程後期中退、大学院卒、学部卒、と学内のステイタスがイコール作品の価格、みたいな設定で運行した時期が25年程続いていた。
院展、創画、といった画壇別の価格設定もある。(東京芸大日展系がいませんでした)
日展=かつての帝展が日本画壇の総本山だったのだが、日展は80年代頃より東京芸大に入り込まず、戦後の東京芸術大学ヒエラルキーのすり替えにあい権威失墜。
、、、と、言うような日展院展、創画、この3つの公募展の政治抗争も日本画を壊死させた原因でもあった。
否。ここに銀座の数件の画廊も絡まり、マーケットのテリトリーウォーズ、交換会での人工的な価格操作、大掛かりな脱税等があいまって、芸術的な文脈以外でも大混乱していたとも言える。
その中、作家(学生達)は生き残りの方法を模索するも、その矛先は作品の芸術的観点ではなく、政治的文脈へと流れ込む。
教授をはじめとする先生達への顔色伺いが「お仕事」と勘違い。
結果、画業本道の道筋探索等はおざなりになっていた。
つまり作品は無惨なゴミの連発。マーケットも見る目無く、というか、政治
献金代わりに使われていた時代もあり内容等は何でも良かったという背景も手伝って批評的観点はほぼ無し。
なので糞絵画を東京芸大ブランド根拠に大枚はたいて購入してた。核心部分は置いてけぼり。些末な人間関係が主軸になる。つまりお客様は置いてけぼり。で、業界破綻となったわけです。
今の日本画の学生はこうした政治抗争も知らなくなってしまってて、地方の風呂敷画商の誰それさんがホテルのスペースで展示会やってくれて売れたとかなんとかで、一喜一憂している有様。なさけない事おびただしい。
、、、ここだけ読むと笑っちゃう阿呆な攻防ですが、これ、渦中にいると笑えない。
今の日本の政治、原発、いろんな問題点と同じ構造に思える。*3

「いろんな問題点」というのは、「高度成長を前提とした社会構造」と「低成長時代の社会」の齟齬かな、と思う。

2.「日本のアイデンティティ」あるいは「日本イメージ」について
「日本のアイデンティティ」なんて話をすると、何故か急に鎌倉期から江戸期の日本の文化のイメージばかりになる人がいるのだが、現在の日本は世界的な先進国であり、世界トップレベルの都市文化のある清潔な国であり、SONYTOYOTA任天堂の国だ。そして今や地震原発の国である。
日本のポップカルチャーにおける「オタク文化」の重要性は今更語らないが、「浮世絵」と「オタク」を直結させてしまうという判断は、「日本イメージ」からしたらステレオタイプが過ぎるし、それ以上に狭い。浮世絵は、江戸期の日本の消費文化の成熟度の高さを示すものであるが、美術の文脈では「西洋への影響」から逆算して語られる、という点を忘れてはいけないだろう。あくまで「本流のART」があって、そこへの影響、という構図であるなら、それはしょうもないんじゃないの?ポップカルチャーを引用して「絵画」にトランスレーションすること自体は別に悪いことではないが、日本画が死んでいるといいながら、「画像」のもつ可能性に関心をよせないというのであれば、参照するカルチャーへのリスペクトが無いんではないか。

3.キュレーションについて
第一部について。

ジンガロのサイトに載ってる各作家のステイトメント。ここに絡んで来る人は皆無。*4

と述べるのだが、正直あのステートメントは「作文」だし、それを衆目にさらす遣りくちエグいな。とも思う。それをやって、制度が変化するのか?というと、微妙だし。
ステートメントは作文じゃねえ。自分の美意識を社会に叩きつけるのがアーティストだろうよ。」というのが基本的には鑑賞者の欲望で、本心がどうあれ思い込みが激しいところを見せてかないとキャラ立ちが弱いし。それをマネジメントするのがプロデューサーの役目だろう。作文を見せられて読み取ってあげよう、というのは教育者の視点で、鑑賞者のそれではない。

第三部については、「<日本画>あらため<日本マンガ式絵画科>誕生」となっているのだが、<日本マンガ式絵画>でなく<科>とするということは、美術教育制度についてのビジョンの提示があるのかと思いきや、「礼儀作法」の重視とか、それは結構だが、マンガと日本画とどう考えるの?ということについては、よく分からない。日本画へ<日本マンガ式絵画>を代入するというのは筋が悪いんじゃないか?日本画が死んでるのと同じくらい油絵も面白くないし、<絵画>そのものを再編する必要があるんじゃないだろうか。<日本マンガ式絵画>ではなくて<キャラ絵>が既にアートなのではないか。<キャラ絵>の<画像>が既にアートであり、それを歴史的に「アートにしていく」ことの方がエキサイティングであり、現代の作家がすべき仕事だろう。死んだ日本画に目もくれず、キャラ絵の画像を作っている人間たちが歴史の先端を走っているのであって、データはアートじゃないけど、その作家たちに筆を持たせて描かせたものが「アートだ」というのだったらセンス無い。*5

JNT作品は、ツールを利用したhack的表現の追及や、オタクカルチャーへのコメンタリーなどの構造に着目するべきだ。今回のペインティングではツールを開発しながらの制作を行っており、新しい表現を生み出すというアーティストの本義を地で行っている。構造的にもサイズに対応してディティールを作りこんできているが、まだまだこれからを期待したい。

JNTの作品の持つ可能性については展覧会「解体されるキャラ」を開催し、論文『想像の欲望をめぐって ―キャラ・画像・インターネット―』にも書いたので、興味ある方にはDL用URLを送ります。また、APP storeでの配信を計画中です。
ていうか、よくみたら展示歴に「解体されるキャラ」入ってないし、アイコンのドット絵ニアレストネイバーで拡大して無いし・・・*6

*1:これはしかし、「洋画」あるいは「油絵」という区分でも同様であろうが。

*2:http://hidari-zingaro.jp/category/art/nihonga/

*3:http://hidari-zingaro.jp/2011/05/web_curator/

*4:展覧会を観て 2011年5月3日:村上隆(5月4日加筆) | Hidari Zingaro

*5:ヒダリジンガロはギャラリーだし、マーケットはペインティングを求めているのであれば、それは商業上の要請としては妥当だろうけど、アートに対しては不誠実じゃないか。

*6:http://hidari-zingaro.jp/category/art/nihonga/n0-manga/#jnthed