百瀬文個展「なぞる人々」

3月2日から7日まで、新宿眼科画廊にて開催されていた百瀬文個展「なぞる人々」を見てきた。

会場には3つの映像作品と、ひとつの立体(+映像)作品があり、それぞれバリエーションがありつつも、映像というメディアへの言及としての個展であった。作家自身が登場する一見私小説的な映像や、カラオケというメディアを題材にした作品もあったが、《Take2》と題された作品が最も興味を引いた。(人によってどの作品がよかったかという、好みが分かれる展示だったようだ。)

《Take2》はこれまでの百瀬の作品同様に、構造的であり、「映像」に対する言及としての作品だ。作品についての解説はできるし、それを読めば作品の構造自体はすぐさま了解できるのだが、文章で記述された構造と百瀬の作品の鑑賞体験は全く異なる。

この作品を見終えた時の感覚は、優れた短編SFの読後感のようだ。さらにいえば、詳細に解説すればするほど、それはただの野暮で愚鈍な記述に過ぎなくなってしまう点が、この作品の持つ強度を示している。その強度は、状況設定や、照明のスイッチング、カチンコといった映像のリズムを基底となして生み出されており(役者も、監督役の百瀬の芝居(?)もよい)、その反復の中で鑑賞者自身がその構造と、映像の演劇性への自己言及に「自ずから気づく」ことが特筆すべき(あるいは作品としての成立の前提である)点だと思われる。

脚気検査》のような、過去の「ナンセンス」な作品から地続きでありながらも、映像への自己言及に鑑賞者自身が気づくような構造を備えることで、とても質の高い作品となっている。映像の演劇性への言及と、鑑賞者が気付く構造は、2011年1月の武蔵野美術大学卒業制作展での作品《breathing》とも同様のものだ。
映像というメディアへの、大上段でもなく、あまりに卑近でもない、正面からの批評的な眼差しと、作品化の手つきが素晴らしい。

作品は、新宿眼科画廊で購入することができる。


百瀬文 MOMOSE Aya – ayamomose.com
新宿眼科画廊 なぞる人々 http://www.gankagarou.com/sche/201203momose.html